甘酒といえば、初詣や寒い日に飲む温かい飲み物、というイメージがあるかもしれません。ところが俳句の世界では、「甘酒」は夏の季語とされています。江戸時代には、夏の街で売り歩かれる飲み物でもありました。

この記事では、次のことをご説明します。

  • 甘酒の起源とされる古代の記録(諸説あります)
  • 「一夜酒」など、甘酒に残る別の呼び名
  • 江戸時代に夏の飲み物として親しまれたこと
  • 俳句で夏の季語とされている理由
  • 現代の冬のイメージと、行事とのつながり

なお、甘酒の歴史には確かめきれていないことも多くあります。この記事では、公的機関などの一次情報で確認できた事実と、諸説あって確定していないことを分けてご説明します。

甘酒は昔から「冬の飲み物」だったわけではない

先に結論をお伝えします。甘酒は、少なくとも江戸時代には夏の飲み物として広く親しまれていました。俳句では現在も「甘酒」は夏の季語(三夏)とされています。

一方で現代の私たちは、初詣や寒い日に飲む温かい飲み物として甘酒を思い浮かべます。この季節感のずれが、甘酒の歴史をたどるうえでの読みどころです。

大まかな流れは次のとおりです。

時期甘酒をめぐるできごと確かさ
奈良時代この時代に成立した『日本書紀』に、甘酒の原型とする説のある酒が記されている諸説あり
江戸時代庶民に広く飲まれるようになる。夏に「甘酒売り」が街で多く見られた確認済み(農林水産省)
江戸時代〜近代俳句で「甘酒」は夏の季語として詠まれる。子季語に「一夜酒」「甘酒売」など確認済み(季語と歳時記の会)
現代冬の温かい飲み物というイメージが定着。祭礼で振る舞われる例もある確認済み(同上・岡山県神社庁)

以下、それぞれをくわしく見ていきます。

甘酒の起源|古代の記録にさかのぼる

『日本書紀』の「天甜酒」とされる記述

甘酒の起源は古く、はっきりとは分かっていません。よく語られるのは、奈良時代に成立した『日本書紀』に登場する「天甜酒(あまのたむざけ、あまのたむさけ)」を甘酒の原型とする説です。百科事典によれば、木花開耶姫(このはなのさくやひめ)が、狭名田(さなだ)という田の稲で醸したとされます。

農林水産省の資料は、この酒について「現代の酒よりも甘酒に近く、米麹からつくられるがアルコール濃度は非常に低く甘味の強い酒であったと考えられている」と説明しています。あくまで「考えられている」という推定であり、断定はされていません。

ただし、この話にはいくつか注意が必要です。

  • 表記が資料によって異なります。 百科事典では「天甜酒」、農林水産省の資料では「天舐酒」と表記されています。どちらが原典の表記なのかは、原典にあたって確認する必要があります。
  • 成立年代と、できごとの年代は別です。 『日本書紀』が奈良時代に成立したことと、記された内容がいつのことなのかは別の話です。
  • 現在の甘酒と同じものとは限りません。 古代の酒を現在の米麹甘酒とそのまま結びつけてよいかは、解釈が分かれます。

この記事では、「甘酒の原型とする説がある」という形にとどめ、断定はしません。

「一夜酒」「醴」という呼び名

甘酒には、「一夜酒(ひとよざけ)」という別の呼び名があります。一晩でつくれることに由来するとされる呼び方です。

俳句の季語としても、「甘酒」の子季語に「一夜酒」「醴」「醴酒」「甘酒売」「甘酒屋」が挙げられています(季語と歳時記の会)。呼び名がいくつも残っていること自体が、甘酒が長く暮らしのなかにあったことを物語ります。

ただし、これらの語がいつの文献に初めて現れるか、また古語での正確な読みまでは確認できていません。

江戸時代の甘酒|夏に売り歩かれた飲み物

街頭の「甘酒売り」

農林水産省の資料によれば、甘酒が庶民に広く飲まれるようになったのは江戸時代です。同資料は、夏の暑さのなかで人々が甘酒を求めたため、特に夏には「甘酒売り」が街で多く見られたと伝えられている、と説明しています。

季語の解説でも、江戸時代の甘酒は「暑気を散ずるとして夏に好んで飲まれていた」と説明されています(季語と歳時記の会)。冷房のない時代に、夏の街角で甘酒が売られていたわけです。

「甘酒売」「甘酒屋」が季語として残っていることからも、当時の夏の風景に甘酒売りの姿が溶け込んでいたことがうかがえます。

なお、当時の甘酒がどのようにつくられていたかについては、季語の解説に「白米を搗きつぶして米麹と混ぜ密閉し、一晩で発酵させて作られる」とあります。米麹の働きで甘みを出す、現在でいう米麹甘酒に近い作り方です。ただし史料の上で、当時の甘酒がすべて米麹によるものだったと言い切れるわけではありません。

「夏にしか飲まれなかった」わけではない

ここで一つ、書き方に注意したい点があります。

「江戸時代の甘酒は夏の飲み物だった」という話は、しばしば「夏にしか飲まれなかった」と受け取られます。しかし通年で売られた記録もあり、そこまで言い切ることはできません。

確実に言えるのは、江戸時代に夏の飲み物として広く親しまれ、現在も俳句では夏の季語とされている、というところまでです。この記事でも、それ以上の断定は避けます。

また、当時の値段や、幕府による価格の取り決めがあったかどうかについては、一次情報で確認できていないため触れません。

俳句で「甘酒」が夏の季語である理由

俳句では、「甘酒」は三夏(夏の三か月を通しての意味)の季語とされています(季語と歳時記の会)。子季語は先に挙げたとおり、「一夜酒」「醴」「醴酒」「甘酒売」「甘酒屋」です。

季語は、その言葉がどの季節の風物として定着していたかを映します。甘酒が夏の季語であるということは、俳句が広まった時代に、甘酒が夏の風物として受け止められていたことを示しています。前の章で見た江戸時代の甘酒売りの姿と、そのまま重なります。

江戸時代の句にも、甘酒は登場します。

一夜酒隣の子迄来たりけり  小林一茶『文化句帖』

一夜酒ができると、隣の家の子どもまでやって来た、と読める句です。甘酒が構えて飲むものではなく、近所で分け合うような身近な存在だったことが伝わってきます。

季語は一度定まると、暮らしのほうが変わっても引き継がれていきます。現代の私たちの感覚と季語がずれているのは、そのためです。

現代の甘酒|正月・冬のイメージはどこから

現代では、甘酒は冬の温かい飲み物として受け止められています。季語の解説でも、現代では主に冬の温かい飲料として飲まれている、と現状が説明されています。

初詣や神社の祭礼で甘酒が振る舞われることも、冬のイメージを強めている一因と考えられます。ただし、こうした振る舞いがいつごろから一般的になったのかは確認できていません。

なお、ひとくちに甘酒といっても、現在は原料の異なる2種類があります。

  • 米麹甘酒:米麹を主な原料とし、麹の働きで生まれる甘みが特徴です。砂糖を加えなくても甘くなります。
  • 酒粕甘酒:日本酒を搾ったあとに残る酒粕を湯で溶き、砂糖を加えて甘みをつけます。

歴史をたどるうえでは、どちらの甘酒を指しているのかで話が変わります。2種類の違いについては、甘酒の種類でくわしくご説明しています。それぞれの解説は米麹甘酒とは酒粕甘酒とはをご覧ください。

酒粕甘酒を飲むときの注意
酒粕甘酒には、原料の酒粕に由来するアルコールが含まれる可能性があります。加熱しても完全には抜けない場合があります。
子供、妊娠中・授乳中の方、車や自転車の運転前、アルコールに弱い方、服薬中の方は注意してください。
米麹甘酒は通常アルコールを含みませんが、市販品を選ぶときは原材料名と表示を確認してください。
祭礼などで振る舞われる甘酒も、どちらの甘酒かは場所によって異なります。

甘酒にまつわる行事と食文化

甘酒祭り(甘酒祭)

各地に「甘酒祭」と呼ばれる祭りがあります。『デジタル大辞泉』などの辞典では、甘酒をつくって神に供え、参拝者に振る舞うことを特色とする祭りで、秋祭りにこの名のものが多いと説明されています。

具体例を一つ挙げます。岡山県神社庁は、高梁市川面町の八幡神社で11月19日ごろの日曜に行われる甘酒祭を紹介しています。同庁の説明によれば、秋の荒神祭りなどで氏子の人たちが収穫を祝って甘酒を参拝者に配るもので、甘酒は氏子24戸を3地区に分けて当番制でつくり、一升樽に注いで供えたあと、皆で分け合っていただくとされています。あわせて、高齢化と食の変化でだんだんと少なくなっている、とも記されています。

甘酒祭がに多いという点は、「江戸の夏の飲み物」「現代の冬の飲み物」のどちらとも異なります。甘酒が特定の季節だけのものではなく、その土地の暮らしや行事に結びついてきたことがうかがえます。

なお、祭りの名称や内容は地域ごとに大きく異なります。ここで挙げたのはあくまで一例です。

甘酒と同じ材料からつくる「酒まんじゅう」

甘酒に関わる食べ物として、和菓子の「酒まんじゅう」があります。

農林水産省の資料によれば、酒まんじゅうは、米・麹からつくった**酒種(さかだね/まんじゅう酒)と小麦粉を混ぜた生地であんを包んで蒸したまんじゅうです。酒種は、炊いた温かいご飯に米麹をほぐし入れ、水とともに混ぜてつくります。同資料は、このとき甘酒をつくるときよりも低い約35℃**で2〜3時間置く、と説明しています。

つまり酒まんじゅうの酒種は、米麹甘酒とほぼ同じ材料を、より低い温度で扱ったものにあたります。甘酒そのものを使うわけではありませんが、麹を使う暮らしの技が、飲み物と菓子の両方に生きています。

行事とのつながりもあります。神奈川県相模原地域の酒まんじゅうについて、農林水産省の資料は、生地を発酵させるには暑い時期が最適であるため、特に7・8月に行われる祭礼には欠かせない儀礼食であったと説明しています。ここでも夏と結びついている点が目を引きます。

一方、「甘酒饅頭」という呼び名でこれと同じものを指すのか、別の由来を持つ菓子なのかは確認できていません。

まとめ

この記事では、甘酒の歴史を古代から現代まで見てきました。要点を振り返ります。

  • 甘酒の起源には諸説あり、奈良時代に成立した『日本書紀』の酒を原型とする説がありますが、表記や解釈は確定していません。
  • 「一夜酒」「醴」など、複数の呼び名が季語として残っています。
  • 江戸時代に庶民へ広まり、夏に「甘酒売り」が街で多く見られました。ただし夏にしか飲まれなかったわけではありません。
  • 俳句では現在も「甘酒」は夏の季語(三夏)です。
  • 現代は冬の温かい飲み物というイメージが定着していますが、甘酒祭は秋に多いなど、地域の行事では季節がさまざまです。

甘酒は、季節のイメージを何度も変えながら、長く受け継がれてきた飲み物だといえます。

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※甘酒に含まれる成分については、別記事「甘酒の栄養・成分」(準備中)で改めてご紹介する予定です。

本記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としており、効果・効能を保証するものではありません。健康状態やアレルギー、服薬、妊娠・授乳などで不安がある場合は、医師・管理栄養士等の専門家にご相談ください。